30代に統合失調症を発病した友だちは
結局、ずっと薬を飲まなかった。
私は十年以上、彼女と会わなかった。
ある日、ふと気がついて、彼女に電話してみた。
電話に出たのは彼女のご主人だった。
ご主人は彼女を呼び、二言三言、彼女と私は話をした。
彼女は極小さい声で、苦しそうに
「元気?」と私に聞いた。
それから数日後、彼女から、私の家遊びに来たい、という電話があった。
「いいよ、遊びにおいで」
と、私は彼女に言い、
彼女は、ご主人に連れられて、私の家に遊びに来た。
驚いたことに、彼女はまったく身の回りに気を付けていなかった。
50代だというのに白くなった髪を、若いときと同じにストレートに伸ばしている。化粧もしていない。
「おみやげ」
と言って渡してくれたのは、くちゃくちゃになった、ポケットディッシュが3個と
どうみても、高校生が履くような、ひらひらのついたソックスが2足だった。
彼女と年の離れたご主人は、会社を定年になっていて
一日、家にいて彼女の世話をしているようだった。
時々、彼女は空に向かって、誰かとしゃべっている。
ご主人は「自分の中にもう一人、人がいるようなんですよ」
と、言って笑った。
彼女は、凶暴になったり、暴れたりするわけではない。
ただ、一人では社会生活がおくれないだろう、という状態である。
「薬は飲んでますか?」
と、私はご主人に聞いた。
「いや、もう医者に通ってないんですよ」
と、ご主人が答えた。